Thursday 5 July 2007

不条理な『落語』考・・・

古典落語が好きだ。


よく聞く落語は大体、『長屋噺』・『お店噺』・『人情噺』などが典型的なものですね。
夏になれば『怪談物』を聞いて、怖さに”ゾッ”っとして暑さを忘れる・・・なんてェことは近頃はなくなったようで。

しかし、無数にある『お噺』の中には典型から外れるものも沢山あるんですね。まァ、しいて言えば『SF噺』とでも言うんでしょうか?わかりやすいのが『あたま山』かな。生きている人間の頭に桜の木が生えてきて、池ができたり、釣りをしたり。それだけならふざけた噺と笑うだけだが、最後に本人がその池に身投げをして突然終わる。ちょっと割り切れなさが残るところがいいスネ。

『首提灯』とか『胴取り』など、全部挙げたらキリがないほど、不条理な噺が見受けられるその中でもワタシが一番好きなのは『猫怪談』です。あらすじはてェと・・・

ある日、与太郎の親父が死んでしまう。弔いを出して家主と与太郎、勘兵衛さんの三人で亡骸を谷中の寺まで運ぶことになる。途中で早桶(棺おけのことですよ)壊れてしまったので、家主と勘兵衛さんが早桶を買いに、与太郎ひとり真っ暗なところに残して行ってしまうと・・・

与太郎がバラバラになった板の上に寝かせている親父に話しかけている。と、『与太郎の向こうを、一尺ばかりの黒いもの』がスッと動いたかと思うと死んだはずの親父が『ピョコ、ピョコ』動き始めて、踊りだす。与太郎も驚いたり、喜んだりしているうちに『ゴゥー』と吹いてきた風に乗って親父の亡骸がどこかへ飛んでいってしまう。

それを聞いた家主は、『死骸(ほとけ)に魔がさしたんだ・・・』
  勘兵衛  『へえ・・抜けました』
  家主   『しょうがないな、もう(早桶の)底がぬけたのか?』
  勘兵衛  『いえ、私の腰がぬけました』とサゲるわけです。

この噺のポイントは、前半で落語の代表的なキャラクターである、『与太郎』の生い立ちが明らかにされることや、寺までの道筋・『魔がさした』場所などが現在と同じでリアル感が強いことなどがあります。
が、それ以上にスゴイのは、暗闇で板に寝かせた親父に、与太郎が与太郎なりの言葉で話しかける場面が涙を誘うのに、そこに魔がさして、死んでいるはずの親父が踊ったり、『ひひひひ・・・』と笑った後飛んで行ってしまう、落差ともいえないシアな方向への噺の展開だ。

実は『与太郎』の両親は流行り病で死んでしまって、『親父』は育ての親だと、家主が与太に聞かせる生い立ちに、涙。

しんみりと与太が親父の亡骸に話しかけるところも、また涙。

でも、親父は『魔が』さして飛んでっちゃう。

こんなに不可思議な感じが残るストーリーは落語以外にもあまり無いんじゃないか?
名作です。詳しくは『ちくま文庫 落語百選 秋』あたりがよろしいかと。

『魔が』さした場所は不忍池の上野公園側のあたりでしょうか。



もっとわからねェのは『猫怪談』なのに、猫の『ね』の字もでてきやがらねェじゃねェか!!